INTERVIEW

感覚が共有できていて良かった。
もし感覚がずれていたら、まるで違っていたと思いますから。

米田邸

米田邸

「米田理髪店」と同じ敷地にある米田敦司さんの自宅は、黒を基調としたファサード、その中で木目が静かに主張します。
米田さんは「元々住んでいたイエは築25年くらい。子供二人も共に成人し、イエを出ていきました。今回の店の移転と合わせ、両親、ぼくたち夫婦、そして2匹の愛犬たちのための、新しい暮らしの場を作りたいと思ったんです」と教えてくれました。
 

米田邸

この二階建てのイエがあるのは理髪店と同じ敷地内。2世帯でなく、玄関が1Fと2Fで共通となった同居スタイルをとっています。
2Fは米田さん夫婦、そして1Fはご両親のためのフロアです。1FはスタンダードなLDK+寝室というシン­プルな造りに。賢太さんは「この1Fはご両親にとって住み慣れた暮らしを続けてもらうため、間取りは極力すっきりと仕上げました。このフロアでは、定期的にリビン­グを利用して書道教室が開かれていると聞きました。そうなると、収納もなるべく増やし、コンパクトな造りが望ましいと判断したんです」と言い、目線を2Fへと向けました。そう、このイエの主人公は2F。2Fが備える空間は、LDK、ロフト、寝室、ゲストルーム、洗面室という構成になっていて、そこには米田さんご夫婦の思いがたっぷり詰まっていました。

玄関から2Fへと上がると、空を仰ぎ見るような、そんな感覚を覚えました。ふわっと広がる光を感じながらぐるりと、その光の出どころを求めて目を動かすと、リビングキッチンが自然と視界に入ってきたのです。
 

米田邸

「実は2Fにはいわゆるドアがなくって、ちょっとしたゲストルーム、そしてロフトもあるんですが、厳密に言えば巨大なワンフロアによる造りになっているんですよ」。どこからともなく声がするなと思ったら、ロフトの上から、先に部屋に入っていた米田さんが手を振っていました。
そう言われてぐるりと一周、室内を見渡すと、確かにドアがない。リビングとダイニングキッチンを中心に据えた造りながらも、その在り方がとても個性的です。

妻の悦子さんは「私はシステムキッチ­ンくらいあれば良いかなと思っていたくらいで、そんなにこだわりみたいなものはなかったんですが、実は主人のほうが、すごくイエに対するこだわりが大­きかったんです」と言い、敦司さんに笑顔を向けます。
 

米田邸

敦司さんは「確かにここはワンフロアですが、自然な形でLDKが浮かび上がるようになればと思いました。ひとつながりではあるんですが、その中でも役割や目的によって薄っすらと線引きがあるというか。そんなことを考えた際、賢太さんから、このLDKの部分を一段上げるという手段を提案してもらったんです」と教えてくれました。

仕切りがあるわけでもないのに、確かに少し高さが違うだけで、この場所はLDKであると理解できます。そして、このLDKが少し高いことにより、ここからつながる場所の性質までもが浮き彫りになるのだから不思議なものです。
 

米田邸
米田邸

「結果として、エアコンも一つで済んでいますし、とても経済的です。そして、仕切りはないんですが、かといって丸見えということでもないので、プライバシーも最低­限に保たれてある。ファジーにつながる空間なんですよね。ただ、どこまで開放するのか。この感覚が賢太さんと共有できていて良かったなと心から思っています。もしこの感覚がずれていたら、まるで違った仕上がりになっていたと思いますから」と敦司さんは言います。

こうして誕生した米田さんご夫婦のための空間は、「快適すぎるくらい快適!!」と思わず声を大にするほどの満足となりました。

「実はLDKは15畳くらいなので、すごく広い部屋というわけでもないんですが、今回のイエはリビングを起点にして建てただけあり、ここで過ごす時間は本当に最高ですね」。

もちろん、ハコがいかに良くても、暮らし方一つですぐに雑然とした空間になってしまうことは多々あります。米田さんのイエづくりにおいて、モノを極力置かないという考えがあったため、完成時のすっきりとした空気感が維持できているそう。

「食卓とソファ。基本的に家具はそれくらいでしょうか。収納は最低限。たくさん収納スペースがあると不必要なものまで置けてしまいますからね。空間に置けない、収納に入らないなら買わないと決めています」。

実際に収納スペースは3畳のウォークインクローゼットが1つ。ただ、収納する場所を集中させることで、必要なもの、不要なものが一目瞭然になるというメリットがあるのだと米田さんは教えてくれました。「どこに何があるかすぐにわ­かる。そんな直感的な使い方ができることを大切にしているんです」。

ところで、LDKの天井を見上げると、傾斜がついていることがわかります。実は屋根も特殊な構造になっているのです。外から見ると一角が伸びて三角形のようですが、こうやって室内に入ってみると、その印象が覆るユニークな造り。これは最も高い屋根の頂点から二方向に角度がついた片流れを合わせた形になっています。ただでさえ困難なこの大工仕事に加え、さらに外壁がガルバリウム鋼板による一枚板で、横の継ぎ目を一切入れな­いという仕事がなされていました。

「この形になったのも、ぼくが発した“ロフトがあるといいよね”という一言がきっかけでした」という米田さん。では、どのようにしてロフトを生み出すか。賢太さんの計算が始まります。本当に些細な、でもあったら良いなという本音の気持ち。そんな思いに応えたからこそ、このイエが生まれたのです。全ては、小さなことから。


Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura

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