INTERVIEW

理想が調和し
一つになった
人が集まる家

山脇邸

株式会社里山建築 山脇様邸

波佐見町の南に位置する川内郷。その西側は川棚川に面し、ホタルが生息する支流が山手へと続きます。界隈には傾斜を利用した段々畑が広がり、木々の葉の、その緑の彩りが特別に色濃く感じられる自然豊かなエリアです。山脇さんはそんな川内郷で生まれ育ちました。
 

株式会社里山建築 山脇様邸
我が家のすぐ下に見えているのが実家です。ちょっと高台にあり、川棚川がきれいに見えるんですよ。この場所からの眺めは僕にとって特別なものです

「我が家のすぐ下に見えているのが実家です。ちょっと高台にあり、川棚川がきれいに見えるんですよ。この場所からの眺めは僕にとって特別なものです」

高校までを地元・川内郷で過ごし、その後、東京、福岡で暮らしていた山脇さん。「地元の先輩から『同じ後継ぎとして一緒に波佐見でがんばろう』と呼び掛けられ、僕自身も家業の観光事業の後継者として、自分を育ててくれた波佐見町へ恩返しがしたいという想いが強くなりました」と、地元へ戻ることを決意しました。

「東京や福岡は確かに便利な町ですが、いつか地元に戻るんだろうなと思っていました。ご近所さんからも実家に帰ってきた際に『そろそろ実家に戻ってくるかね』と声を掛けてもらったり、僕になら土地を売ってあげてもいいと言ってくれたり、そういうつながりがやっぱり嬉しかったですね」

株式会社里山建築 山脇様邸

家を建てるにあたり、山脇さんが重視したのが「感性」でした。「家は人生で一番高い買い物ですから、僕のことをよく知っている人に任せたいと思っていました。幸い、僕には賢太さんという旧知の間柄の友人がいました。賢太さんのお父さんのこともよく知っていますし、僕という人間を理解し、家に表現してくれると思えたんです。趣味のことも、ライフスタイルのことも、一つ言えば、十わかってくれますから」という山脇さん。他にも仕事関係での付き合いもある中、最終的に里山建築を選びました。

賢太さんに家を建てたいと相談したのがおよそ3年前。「大きなテーマは人が集まる家ですね。それでいて攻めた家。なかなか難しい要望を伝えたと思います。でも賢太さんなら分かってくれるかな、と。これらの要望を元に、もう少し具体的に、ゆとりのあるリビング、開放感のある吹き抜け、広々とした土間を取り入れてほしいとお願いしました」と振り返ります。

大きなテーマは人が集まる家ですね。それでいて攻めた家。なかなか難しい要望を伝えたと思います。

山脇さんにとって、家は人が集う場所。ご実家でも、この家で暮らす以前の住まいでも、山脇家には来客が多く、友人や知人たちが立ち寄るシーンがごく日常のことでした。そのため、多くのゲストが訪れても圧迫感が生まれない空間、迎え入れるための広々とした玄関スペースは必須の条件です。

「高台に家が建てられたので、このロケーションを最大限に活かしたいと思ったんです。窓は可能な限り大きく、多く、それでいてプライバシーは守られるように、高台の下から室内が丸見えにならないようなギリギリのバランスを調整してもらいました」

完成した山脇さんの家を外から眺めながら、賢太さんは「要望をしっかり咀嚼し、その上でこれから長く暮らす家ですから、毎日が快適に過ごせる配慮を随所に散りばめてみましたよ」と自信をみせます。

川棚川から家に向かって傾斜を上がっていくと、山の稜線に、ふいに茶色の直線が重なりました。これが山脇さんの家です。中央の渡り廊下から左右に、ちょうど“谷”の形をした外観が山脇家の特徴。外観のほとんどを木目が占めているため、印象的な形状の家でありながら、背景の山々、そして澄み渡る青空にすっと溶け込むデザインです。山脇さんの家の造園は、世界を舞台に活躍する「西海園芸」山口陽介さんが手掛けました。木々に囲まれたエントランスの奥では、整地の際に出てきた庭の石を「割り戻し」という技法によって元々の石の姿に蘇らせたオブジェがゲストを迎えます。

向かって左側にある家屋の1階部分は2台収容できるガレージ、2階部分はご夫婦の寝室と子供部屋。
2階の渡り廊下はオープンテラスになっていて、遮るもののないここからの眺めは本当に贅沢なんですよ。

向かって左側にある家屋の1階部分は2台収容できるガレージ、2階部分は子供部屋。右側の家屋の1階はリビングとダイニングキッチンといった暮らしに関する機能が集約されています。なお、右側家屋の2階部分は山脇さんご夫婦それぞれの書斎と寝室、家族全員分の服がまとめて収納できるウォークインクローゼットです。

「2階の渡り廊下はオープンテラスになっていて、遮るもののないここからの眺めは本当に贅沢なんですよ。1階の渡り廊下部分には浴室や洗面台のほか、家族用の玄関を造ってもらいました。リビングの横の土間はゲスト用というように区切ることで、玄関周りをすっきりさせたいと思ったんです」

株式会社里山建築 山脇様邸

この左側家屋内のガレージ、そこから続く家族用の玄関のおかげで、暮らしがグンと快適になったという奥様。「まだ子供が小さいので、出掛ける準備でぐずってしまうこともありますが、そんな時でも、ゆとりが持てるようになりました。あと雨が降った日には本当に大助かりです。乗り降りはもちろん、荷物の出し入れもスムーズですよ」と微笑みます。山脇さんも続けて「家にこだわっているのにガレージのシャッターだけアルミ製というのがどうしても納得できなかったので、最終的に木のシャッターにしてもらいました。木は北海道から取り寄せたレッドシダーです。経年による味わいが楽しめると聞いているので、この先、楽しみですね」と声を弾ませました。
 

レッドシダーの風合いを最大限に活かすために、シャッターのピッチの幅 も十分に検討を重ねた。
山脇さんの家への思いが最も凝縮しているリビングは、中央に延びるランウェイが最大のアクセント。

賢太さんは「レッドシダーの風合いを最大限に活かすために、シャッターのピッチの幅 も十分に検討を重ねました。また、このガレージ部分は土壁の仕様なので、木と土のバランスを考え、どちらの質感も活きるようにデザインしています」と自信をみせます。

山脇さんの家への思いが最も凝縮しているリビングは、中央に延びるランウェイが最大のアクセントです。リビングとランウェイ。その発想に驚かされますが、山脇さんの思いは実にシンプルでした。

「遊び心を取り入れたかったんですよ。何か思い切ったことをしたいなと考えている中でランウェイを閃いて。ちょっと奇抜すぎるかなと思って、恐る恐る賢太さんに提案してみたんですが、『おお、良いね!』と即答だったんです。あれは嬉しかったですね。分かってくれているなと思い、お願いして間違いなかったなと確信しました」
 

株式会社里山建築 山脇様邸 ダイニング
株式会社里山建築 山脇様邸

賢太さんも「せっかくの家づくりですから、後悔がないように支えていきたいと思っています。ランウェイ自体は他にないアイデアなので突飛な印象を受けますが、そんな攻めた家づくりのなかでやりすぎないように、何よりこの先の暮らしの中で、飽きないように仕上げる。そんなバランスをとるのが僕たちの役割ですから」と胸を張ります。

一番奥の部屋から一直線に延びるランウェイは、子供たちにとっては絶好の遊び場に。実はランウェイは収納機能も持ち合わせていて、細々としたおもちゃ類はまとめて中へ入れることができます。リビングが2つに分かれることで、空間にメリハリができるという効果も。奥様は「友人たちが集まった際、ランウェイはベンチにもなりますし、子供たちが遊ぶ時にも良い具合に仕切りになってくれて物が散乱しないんです」と教えてくれました。山脇さんも「ランウェイがあるため、ソファが置けなくなったんですが、むしろそのほうが良かったですね。できる限り物を少なくしたいと思っていたので、収納スペースは必要最小限にしてもらっているんです。そんな考えの中、自分らしさが表現でき、家族全員、そしてゲストも喜び、収納においても活用できているランウェイは、我ながら最高のアイデアだったと思っています」と大満足です。

キッチンと棚の幅もゆったりと設けた。
キッチン部分はオープンキッチンの高さに合わせ、壁側に作りつけの棚を配置。「キッチンと棚の幅もゆったりと設けてもらいました。広々としたキッチンになったからか、長男がお料理を手伝ってくれるようになったんです」と奥様は目尻を下げます。

 

株式会社里山建築 山脇様邸 浴室
株式会社里山建築 山脇様邸 洗面所

「やるからには妥協したくないと思い、洗面所から浴室に至るまで、十分に納得できる仕上がりになりました。夜に窓から部屋の明かりが漏れている様子も好きですし、周囲の木々との調和も気に入っています。日々の暮らしの中で、改めて里山建築さんのデザインのセンス、ここで暮らす人の立場で考え抜かれた使い勝手の良さに気付かされることが多々あるんです」

夜に窓から部屋の明かりが漏れている様子も好きですし、周囲の木々との調和も気に入っています。

完成した家には、すでに多くの友人、知人たちが訪れているそう。一度に30人以上が集まった日もありますが、それでも山脇さんの家はその魅力を存分に発揮し、ゲストに良い時間を届けました。

「こういう家にしたいという理想のイメージがあり、家づくりにおいて、リビングの広さ、ランウェイの導入、窓の大きさと数、屋内ガレージ、ゆとりのある土間、プライバシーへの配慮というように数え切れない要望がありました。その全てが調和しつつ、同時に実現できていることに感動しています」

株式会社里山建築 山脇様邸
Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura

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