INTERVIEW

「イエ/店づくりにおいて、ぼくたち施主にできるのは選択だけ。
だからこそ、価値観が近いことが重要だと思うんです」

PERHAPS

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「賢太さんとはもうかれこれ10年くらいですかね。武雄でイベントがあっていて、そこに行った際に初めて出会ったのがきっかけで、今まで交友関係が続いています」

その後、賢太さんから仕事のオファーがあり、そしてまたオファーがあり、というように、賢太さんと北島さんの縁はつながっていきます。

「仕事を通じて感じるのは、北島さんはグラフィックデザイナーと表現するよりも先に作家というイメージが強いということ。絵、つまり作品をゼロから生み出せる人です」

賢太さんは北島さんをこんな言葉で表現してくれました。その意味を噛み砕くと、グラフィックデザイナーはつまり広告の仕事における肩書きであり、クライアントが表現したいこと、その手足となり、デザインの力によって伝える手伝いをします。一方で、作家とは自分の表現したいことをゼロを起点に生み出します。例えば同じように“デザインする”という目的を達成しようとした際、ベクトルは全く異なることになり、そんな二面性を備えつつ、グラッフィックデザイナーとして作家性を込みにして表現できるのが北島さんの強みです。

「だからこそ」と切り出した賢太さん。一呼吸おいて「そんな北島さんに似合う空間があると思うんですよね」と続けました。
 

1Fに優雅な回遊性を。
2Fに作家たちへの愛を。

自宅スペースのリノベーションは自分でできるが、さすがに2階へとあがる階段を取り付けるのは素人では難しいと判断し、その相談がきっかけになったという北島さん。その相談に賢太さんは「確かに2階との動線を作ることが依頼だったんですが、1階と2階の動線から生まれる建物全体の動線を考えるべきだと思ったんです。第一が、生活スペースとの住み分け。例えば、PERHAPSは飲食店ではないにしても、ゲストのためにトイレが必要だと思いましたし、コーヒーを出したいという希望もあり、それらをショップ、ギャラリーとどのように調和させるか、やっぱり全体のバランスをとる必要があると思いました」と振り返ります。
 

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1Fのショップは回遊性が十分に考慮されたゆとりのある空間づくりがなされました。その動線は、オリジナルのディスプレイ棚の作成とその配置によって美しく表現されています。「できる限り、いろいろなシチュエーションに対応できる空間にしたいと思っていました。その結果、ディスプレイ棚は解体できる仕様に、さらにキャスターを付けて棚を移動可能な仕様にしてもらえ、こちらがイメージするものをスッと形にしてくれる精度とスピード感に感心しました」と北島さんは笑顔を見せます。
コーヒーを提供するということもあり、レジ周りにはややゆとりを持たせ、住居へと続く通路は逆に最小限とし、主張しないように配慮。ディスプレイ棚に抜けを持たせているため、空間に圧迫感がないのもこの空間の特徴です。使用する木材は佐賀の県木であるクス。建築には比較的使いにくい材木ですが、それをなし得るのが里山建築として培ってきた大工としての職人技術です。
 

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見上げれば鉄骨。元々の鉄骨を活かしたいと考えた北島さんの気持ちに応え、賢太さんは天井を抜き、2Fの板張りの木目が見えるような空間デザインを考えました。結果、元々の位置よりも20cmほど高くなり、鉄骨を含む天井が、この空間における開放感の創出に一役買っています。

2Fへの動線となる階段は、最終的に入口側から見て店舗の右奥に配置。空間におけるスペースを奪いすぎないよう、木製の螺旋タイプの掛け合わせを採用しています。そこに広がるのはマホガニー素材の無垢材が敷き詰められたギャラリースペースです。「一見すると板目しか見えませんが、間に防音シートをかませているんです。足音が1階に響くといけませんからね」という賢太さん。よくよく床を見ると、マホガニーが良い味を出しています。新しいのに、すでに使い込まれたかのような深みもあり、天井にむき出しとなった鉄骨の姿と相まって、歴史を感じさせました。
 

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2Fの窓側の壁はもともとの白色をそのまま残しています。そしてその他の壁は同系色によって塗装。「実はコンパネの上に下地が入っており、ど­んな展示にも対応できるよう、考慮してもらっています。こういう痒いところに手が届く仕事が嬉しいですね」と北島さんはにこやかな表情を見せます。
北島さんのオフィススペースとの間の壁には、念願だったという、JRでかつて使われていた受付窓口を再現した小窓を作成。そのオフィスは一人で作業を進めるにあたって効率的な棚の高さ、配置がなされていました。
 

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暮らしながら働く。住まい、ショップ、ギャラリーが一つになった場所で暮らす北島さんは、その暮らしそのものが働くことに直結しています。オ­ンとオフを区切らない生活ゆえに、小さなことほど疎かにはできません。

「こうしたいという漠然としたイメージは誰しもあると思うんです。ただ、建築についての知識は全くないわけですから、最後は専門家に任せるしかない。家を、店を造るというのは、言い換えると選択の連続です。こちらから希望を伝え、建築のプロからの提案を受け、その選択肢から最良だと思うものを一つチョイスする。その積み重ねでのみ、建物はできあがります。だからこそ、価値観が近い、こちらが言わんとすることを理解してもらえるというのが何よりも重要なのだと痛感しました」。

Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura
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