INTERVIEW

ここにしかない建物を
活かすことが
無二の個性になる。

Little Leo

長崎県東彼杵町 Little LEO

飲食店を訪れる際、真っ先に目に入るファサード。ふらりと立ち寄った初めての店の場合、ファサードで得られる情報が全てです。入ろうか、入るのをやめようか。このファサードとのファーストコンタクトによる刹那によって私たちは選択します。

パッと目を引く黄色のドア。そして味わいのある、どこか温かみを感じる建物は、確実に期待感を掻き立てます。そして、自ずと手はドアの取っ手へ。
「店がある高台から望む大村湾の夕陽が美しくって。ドアの色はこの夕陽に着想を得たんです。ちょうどミモザの花が満開の頃に、このLittle Leoをオープンしました」

長崎県東彼杵町 Little LEO
ちょうどミモザの花が満開の頃に、Little Leoはオープンしました

オーナーシェフの宮副玲長奈さんは長崎県佐世保市の出身。短大を卒業後、20歳で料理の道に進み、東京で3年、その後、フランスで10年、料理の腕を磨きました。実家は創業から40年を経た佐世保の老舗フレンチ「Leo lion d’or」です。

「東京で働きながら、やるなら本場で学びたいという気持ちが芽生え、渡仏しました。アテもツテもありませんでしたが、とりあえず行ってみることにしたんですよ。本当に出たとこ勝負でしたね」
Little LEOオーナーシェフの宮副玲長奈さん

フランスで過ごした時間はチャレンジの連続でした。働く店は実際に食べに行って探したそう。そして美味しい店があれば、直談判。もちろん、すぐには働く機会が得られませんでしたが、それでもどうにかシェフとして採用してもらえる店に出会えました。
「仕入れからメニューの組み立てまで全般を任されるようになり、就労ビザまで取得し、何店舗かで働き、気がつけば10年が経っていましたね」

星付きレストランとして知られる「Pierre Orsi」をはじめとする名店での調理経験は宮副さんの土台となりました。

31歳、宮副さんは人生の岐路に立ちます。そのままフランスに残るか、日本に戻るか。悩んだ末、選んだのは、帰国でした。

宮副さんは、父親が営む「Leo lion d'or」のシェフとして腕を振るう傍、九州文化学園調理師専門学校でフランス語講師を務めた
長崎県東彼杵町 Little LEO

2004年に地元へ戻った宮副さんは、父親が営む「Leo lion d’or」のシェフとして腕を振るう傍、九州文化学園調理師専門学校でフランス語講師を務めます。近年では“旅する料理人”としてケータリングスタイルで料理を振る舞うなど、活動のフィールドを広げてきました。

そんな宮副さんが独立の地に選んだのが東彼杵町です。東彼杵町は長崎県のほぼ中央に位置し、西は大村湾に面しています。
「フランスと日本でも環境は異なりますが、フランスと九州となるとさらに大きく環境が異なります。水と油ですね。ただ、帰国する前からそのことは分かっていましたし、それでも日本でやっていくという覚悟がありました。当初は地元でもある佐世保で考えていましたが、なかなか条件に合う場所が見つからない。そこで自分に土地勘のあるエリアという条件の元、範囲をやや広げた結果、見つかったのがこの町です」

東彼杵町に惹かれた理由がいくつかある中、真っ先に挙げたのが野菜の美味しさでした。

「野菜そのものの旨味は、この東彼杵にもたらされる日照時間、そして東彼杵という土地が備えたテロワール(フランス語「terre」から派生した言葉で、生育地の気候や地理、地勢に基づく特徴のことを意味する)によるものです」

料理人として地域に魅力ある食材があることは何よりも嬉しく、頼もしい要素です。空港や高速道路へのアクセスが良い点も決め手になりました。「そして、、、」と宮副さんは続けます。

「もう一つ、ここで勝負したいと思ったのは、この建物が気に入ったからです」
長崎県東彼杵町 Little LEO

そう口にして宮副さんは室内を見渡しました。実はこの建物は築70年を経た味わいのある牛舎だったのです。そしてこの牛舎のリノベーションを手掛けたのが里山建築です。

「きっかけは賢太さんですね。10年前から知る仲なんです。もちろん、里山建築さんにも全幅の信頼を置いていましたよ。空間をデザインするにあたり、元の建物を上手く活かすところが好きですね。何事もそうなんですが、僕は過度に変えることが苦手なんです。ここもそう。この建物を活かすのでなければ、ここでなくても良いということになりますから」

長崎県東彼杵町 Little LEO
シチュエーションの異なる昼と夜の需要に対して万全の状態で臨む。そんな意思がこの厨房レイアウトからひしひしと伝わってくる。

設計に関しては、大きく厨房とフロアを分け、厨房部分については宮副さんが厨房機器などの場所を細かく指示。一方で、フロアは里山建築のセンスにお任せすることになりました。
賢太さんは「厨房については、今回古民家のリノベーションということもあり、どうしても建物の構造上、抜けない柱がありました。それをどうやって処理すべきかという点で悩みましたね。最終的に、あえてその柱を活かすことにしたので、現場サイドではミリ単位で調整したんです。しっかり要望が収まってよかったですよ。苦労が詰まっている分、店の心臓だといえる厨房がかなりリッチな造りになったように思います」と笑顔を見せます。

全25席という空間に対して、かなり広めかつ、贅沢な厨房機器が導入された宮副さん仕様のキッチン。昼は本格フレンチをカジュアルに楽しんでほしいという願いから品数を厳選して提供し、ディナー時は宮副さんが本場フランスで培ってきた一流の技術を惜しみなく注いだコース料理を堪能してもらう。シチュエーションの異なる昼と夜の需要に対して万全の状態で臨む。そんな意思がこの厨房レイアウトからひしひしと伝わってきました。
長崎県東彼杵町 Little LEOのフロアはテーブル席を主体としつつも、カウンター席も用意。

フロアはテーブル席を主体としつつも、カウンター席も用意。賢太さんは「特に要望はなかったんですが、この店に似合いそうだと考え、カウンター席を取り入れてみては、という提案をしました。宮副さんのライブ感溢れる料理を近くで感じてほしいという思いもありましたし、例えばイベント時には料理を並べる台として活用できると考えたんです」と導入の意図を説明します。

長崎県東彼杵町 Little LEO
木の温かみに溢れた空間は、席の間隔がゆったりと取られている上に、その配置も視線がぶつかりにくく配慮され、居心地の良さが伝わってくる。

木の温かみに溢れた空間は、席の間隔がゆったりと取られている上に、その配置も視線がぶつかりにくく配慮され、居心地の良さが伝わってきます。そしてこの元牛舎が持ち合わせていた味わいも薄れることなく、この空間のエッセンスとして息づいていました。

解体の際に生じた土をとっておき、必要な箇所のパテ埋めをしてもらった。
屋根の隙間に、元々あった藁を束にして埋め込んだり、そのほかにも柱を一本いっぽん吹き上げ、オイルを塗りこむなど、細かいところまで色々と助けてもらえ、本当に助かりました。

「このLittle Leoを造るにあたり、地元の有志をサポーターズとして募り、工事に協力してもらいました。集まったのはおよそ30人。彼らに手伝ってもらい、土壁の下地を塗ったんです。地域を巻き込んで生まれたまさに地域のための場ですね」という賢太さんの言葉に、宮副さんも「解体の際に生じた土をとっておき、必要な箇所のパテ埋めをしてもらったり、屋根の隙間に、元々あった藁を束にして埋め込んだり、そのほかにも柱を一本いっぽん拭き上げ、オイルを塗りこむなど、細かいところまで色々と助けてもらえました。おかげさまで、完成した店が、サポーターズの一人ひとりの顔が思い浮かぶ思い入れある場所になりましたよ」と続けます。
現在は1階のみでの営業ですが、ゆくゆくは2階をギャラリーとして活用したいのだという宮副さん

オープン前から地域の人々に自分たちの顔が知ってもらえたことも良かったという宮副さん。この共同作業のおかげで、開業後、すぐに東彼杵の店として馴染めたのだといいます。

「実はこの東彼杵町という地域は移住者が多く、コミュニティの結束が強いようです。僕もその仲間として認知してもらえたおかげで、この地域での暮らしもとても楽しめています」

こうして、2019年3月15日、「Little Leo」がオープンしました。
とてもきれいな自然光が差し込むLittle LEOの2階。

「2階にはとてもきれいな自然光が差し込むんですよ。今は広々と使えるように、あえて仕切りは設けずに1フロアにしています。今後DIYで手を加える予定ですが、どうなっていくのか自分自身が一番楽しみにしていますよ」と声を弾ませました。

Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura

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