INTERVIEW

アートを通じた改革。
4つのLで満たされる
“村”をつくっていく。

L VILLAGE(エル・ビレッジ)

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)

「AIUEO LAB.」の躍動を肌で感じたその日、メンバーである石丸徹郎さんと寺澤大祐さんの2人が中心となって立ち上げた障がい者福祉施設があると聞き、立ち寄りました。それが長崎県大村市にある就労継続支援B型事業所「L VILLAGE(エルビレッジ)」です。

開業は2020年2月のこと。「ここは“村をつくろう”という思いから生まれた施設なんですよ」と出迎えてくれた石丸さん。村には様々な人々が暮らしています。性別、年代、職業、それまで生きてきた過程、誰一人全く同じ人間は存在しません。それが本来の社会であり、その一つの区切りが、石丸さんがいう「村」なのです。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)石丸徹郎さん

石丸さんは「障がいを持つ人も多様な人々の一人であり、普通に関わり、交わり、交流するのがそもそもの社会だと思うんです。それぞれの仕事や役割があって、それらの集合によって地域の暮らしが成り立っています。そういう村のようなコミュニティを創っていきたいんです」と立ち上げの思いを教えてくれました。

あたたかい暮らし=Lifeがあり、笑い声=Laughが溢れ、人生の学び=Learnがあり、そして愛=Loveがある。これらの「L」で満たされる大きな村づくりを目指すという意味が「L VILLAGE」には込められています。そして、それらの根っこにあるのがアートへの思い。アートという表現を通して、社会とのつながりを生み出していくことを目指しています。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ) アートという表現を通して、社会とのつながりを生み出していくことを目指す。
長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ) アートという表現を通して、社会とのつながりを生み出していくことを目指す。

「L VILLAGE」では、対話の中から通所する障がい者たちの得意なこと、好きなこと、できることを見つけていき、どうやって働いていくのかという道筋を共に考えていきます。「L VILLAGE」で働く職員たちの仕事は、地域、つまりは社会との交流のための糸口を見つけ出すところから、始まっているのです。通所者たちの仕事は実にさまざま。絵やデザインが得意な人はそれを仕事にします。また、ワードやエクセルといったパソコン業務が得意な人はそのスキルを活用した働き方ができます。
例えば、絵を一枚、売ろうと思うと、その過程にはさまざまな業務が発生します。まず何を形にするかを企画し、創作またはデザインを考案します。ここで生まれたデザインを商品・製品化するために実際に製造。作ったら終わりではありません。これらの商品の流通を管理しなければなりませんし、売れるために販促にも取り組まなければならないでしょう。「L VILLAGE」とはこういった一連の流れを一貫して担っている“工場型アトリエ”というイメージがぴったりです。絵を描く人、それを売る人、売る場所を管理する人、売ったあとの収入を管理する人———そこには一つの社会、つまり「村」が生まれます。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)寺澤大祐さん

石丸さんとこの施設を共同で運営している寺澤さんは「アートを通して、働き方や暮らし方、そして生き方を発信する場所だと思ってほしいですね。アーティストとして活動したい人はもちろん、裏方に徹して事務作業をしたい人にも一緒に働いてもらいたいと思っています。様々な業務を体験できる環境を提供することで、仕事に対しての視野も広がりますし、働き方のヒントにもつながるかと思っています」と笑顔を見せます。

「L VILLAGE」の発起人である石丸さんは、この多様な働き方ができるという点に強い思いがあるのだと力を込めました。福祉関係の仕事に就く以前は、レコード会社やイベント会社など、全く畑違いの業界で働いていた石丸さん。その中で心の中で膨らんでいったのは“焦り”の気持ちだったといいます。その焦りというのは、一生をかけて取り組める仕事を模索する中で、とはいえ、なかなかそう思える仕事に出会えない中でのフラストレーションです。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ) アートという表現を通して、社会とのつながりを生み出していくことを目指す。

石丸さんの転機になったのが、ひきこもりになってしまった若者たちを社会復帰させるという相談を請け負い、取り組んだ半年間でした。「初めて人と本気で向き合ったと思えたんです。面と向かって接し、相手のためにできることに全力で取り組む。この一連の出来事が僕にとって福祉の業界との初めての接点になったわけですが、一生をかけて取り組める仕事だなと思えました」。こうして石丸さんは2010年、就労移行支援事業所「ホットライフ」を佐世保市に開設しました。石丸さん自身、いろいろな仕事を体験してきた過去があり、そうやって様々な仕事を見てきたからこそ、本当にやりたいことが見つかりました。その経験が「L VILLAGE」のバックグラウンドとなり、通所者たちの多様な働き方を支えられるのだとわかりました。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ) アートという表現を通して、社会とのつながりを生み出していくことを目指す。

里山建築との出会いは、佐世保にある「toalu(トアル)」。里山建築がリノベーションを手掛けたこの店舗で、石丸さんは感銘を受けました。「かっこいいお店が地元にあると聞いて行ってみたんです。本当に素晴らしいお店で、決して広いお店ではないんですが、空間が洗練されていて、すごく居心地がよかったんです。申し訳ないんですが、僕らが暮らす佐世保という地方都市で、こんなに優れたデザインの建築には出会えないと思っていました。デザインされたセンスのある建物は都会のものだと思い込んでいたんですよね」。

こうして石丸さんはさっそく運営していた既存の施設のリニューアルを里山建築に依頼します。その一つ、就労継続支援B型事業所「ミナトマチファクトリー」は開業当初から、いわゆるワーキングスペースとして障がい者に限らず、一般人も訪れて創作活動ができる場として運営されていました。屋号に“ファクトリー”という文字があることからもわかるように、ここは工場として、商品の企画・開発、デザイン、そして製造から販売までの一連の流れを担っています。
 

「ミナトマチファクトリー」では現在、精神障がい者が通所者全体の9割くらいを占めています。

「ミナトマチファクトリー」では現在、精神障がい者が通所者全体の9割くらいを占めています。開業当初はネットカフェのように個人ごとに区切られたようなパーソナルスペースを用意していたそうですが、そうしたにも関わらず、通所者たちは外国人たちも入り混じるような佐世保市内のカフェに喜んで滞在していたそうです。そのような背景もあり、リニューアルを機に、石丸さんは思い切って、施設のあり方を抜本的に見直しました。
 

「ミナトマチファクトリー」では発達障害者の人にはタブーとされるフリーアドレスを空間に取り入れた。
 

「最も象徴的な改善点が、特に発達障害者の人にはタブーとされるフリーアドレスを空間に取り入れたことです。場所が決まっていない、つまり毎日変化があるような空間にしました。さらに仕切りを作らない造りになっていて、仕切りがあってもそこにはガラス窓が取り入れてあり、目隠しをさせないような空間づくりをしまいた。丸見えにすることで、どうなるかと少なからず心配していましたが、結果は驚くほどよかったんですよ」と顔を綻ばせる石丸さん。
精神障がい者が通う多くの事業所の場合、決めていても予定通りに通所をしていただくことが一つの課題です。ところが、「ミナトマチファクトリー」の場合、通所予定日の出席率はほぼ100%なのです。
 

ミナトマチファクトリー」では、通所予定日の出席率はほぼ100%。

「この結果には本当に驚きましたよ。やはり空間に魅力があるからこそ、喜んで通ってくれているんだと思いましたね。こちらが勝手に想像して造った“障害者がいるべき施設”みたいにしてしまうと、かえってよくない。おかげさまで今も人気が継続していて、定員待ちの状態が続いています。空間が精神疾患の患者さんたちに与える影響は計り知れませんね。ハード面で里山さんにサポートしてもらっているのは大きな強みです」
 

「L VILLAGE」は、僕のイメージを覆すような、洗練されていて、それでいて温かみのある空間に仕上がった

そんな「ミナトマチファクトリー」での経験を総動員して生まれた「L VILLAGE」は、僕のイメージを覆すような、洗練されていて、それでいて温かみのある空間に仕上がっていました。
 

「空間自体の構成は極力シンプルにまとめ、什器には遊び心を取り入れてデザイン的な表現をしてほしいという希望を伝えた」

「空間自体の構成は極力シンプルにまとめ、什器には遊び心を取り入れてデザイン的な表現をしてほしいという希望を伝えました。細かなところは全て賢太さんにお任せしています」という寺澤さん。賢太さんも「先方がノープランで、選択肢がありすぎるというのも実は結構難しくて。その点、石丸さんと寺澤さんの場合には大きなところのビジョンがあるので、とても進めやすかったですよ」と続けます。
 

里山建築・里山賢太
長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)寺澤大祐さん

元々、歯科技工士の専門学校だったというこの建物。館内の一室となるメインフロアは白を基調に、随所から木の温かみが伝わってくる空間です。通所者たちの作品が引き立ってほしいという思いが息づいています。
「レトロな、やや古めの建物を探していたんです。本当は倉庫、問屋の跡地などがあれば、開放的な造りにできそうだなと思っていたんですが、ここは駅からも近く、さらにフロア単位で賃貸契約できるようになったので、決めました。他のフロアも空いているので、共感できるテナントさんが入ってくれたら嬉しいですね」という石丸さん。
寺澤さんは「いろいろなシチュエーションに対応できるようなフレキシブルな空間にしたいと考え、壁や大きな棚以外のテーブルやイス、パーテーションといったものはどれも動かすことを前提に配置しているんです。ライブ感があり、日々、そして定期的に動いていく空間。即興のジャズのように、柔軟に変化する場に仕上がりました」と満面の笑みを浮かべました。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)。広いワンフロアは大きく、アトリエスペース、ラウンジスペースに分かれている。
 

広いワンフロアは大きく、アトリエスペース、ラウンジスペースに分かれています。ただ、分かれているといっても、厳密には分かれていません。フロアに段差を設け、そこで緩やかに空間を区切っています。
また、段差が上がった境界線には、あえて角度をつけて斜めにしたセパレートウォールを配置。並行ではなく、角度をつけ、さらに一面壁にせずに上下を枠だけにすることで、圧迫感を軽減する工夫が盛り込まれています。壁はあらかじめ作品がディスプレイできるようにしてあるため、仕切りというそもそもの目的が全く意識されないほど、この空間に馴染んでいました。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)
 

「アトリエとラウンジ、2つのスペースが共存しているのに、ほどよい距離感があり、近いのに離れている、遠いようで繋がっているという絶妙な関係性が生まれています。どちらにいても一緒の空間で過ごしているという実感が生まれるところに感動しています」と石丸さんは嬉しそうに言葉を弾ませました。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ) ラウンジスペースにはバーカウンターがあり、カウンターの中には簡易的なキッチンも用意。
長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)

アトリエスペースの奥は壁一面をパンチングボードとし、通所者たちの作品を元に商品化したTシャツやトートバッグ、ポストカードなどを飾っています。「作品が映えるように、落ち着いたトーンの色合いを選びました。ポップな作品がたくさんあると、心が明るくなりますよね」と目尻を下げる賢太さん。外からの光が差し込む窓側にはカウンター席を配置し、空間の中央に置かれた大テーブルの広々とした開放感が最大限に生きるように心を配っています。

ラウンジスペースにはバーカウンターがあり、カウンターの中には簡易的なキッチンも用意。職員と通所者が一緒にランチを楽しんだり、時にはちょっとした料理を互いに振る舞い合ったり、アットホームな関係が築けるのも「L VILLAGE」の魅力の一つです。ラウンジスペースでは、中央にある丸いテーブルと、そのテーブルに合わせて作られたオリジナルのサークル型ベンチが空間のアクセントに。寺澤さんは「このテーブルのおかげで和やかな空気が生まれていますよ。カウンターとも近いので、会話も弾みます」と教えてくれました。別室にあるスタッフルームもまた、広く取られたガラス窓、ガラス戸が特徴。つながりを大切にするという一貫したメッセージが伝わってきました。
 

長崎県大村市 L VILLAGE(エル・ビレッジ)

まだ誕生して1年にも満たない「L VILLAGE」ですが、その活動状況に石丸さん、寺澤さんの2人は手応えを感じているようです。
「初めから作品づくりが上手くいく人もいれば、才能が開花するまで何年もかかる人もいます。人それぞれに個性があるのですから、本人たちの気持ちを大切にしたいですね。一つ、何かの道ができると、それが自信につながり、力が発揮できます。また、アーティストになり、アートで一本立ちすることだけがゴールではないですからね。僕らと過ごす時間が、人生を楽しんでもらう手助けになれば、これほど嬉しいことはありません」。そう話す石丸さんのやさしい目は、この先の未来を見ているようでした。

L VILLAGE(エル・ビレッジ) Facebookページ

Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura
L VILLAGE(エル・ビレッジ)
種別 リノベーション
用途 店舗
構造 RC造
竣工 2020年7月
所在地 長崎県大村市東本町104-7 manaBLD2F-C

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