INTERVIEW

家具、雑貨、そして家に
共通する一つの思い。
長く使い続けられること。

古川邸

長崎県佐世保市 古川邸

家づくりをパズルに例えるなら、最後の1ピースは何でしょう。家具でしょうか。表札でしょうか。それとも経年のための時間でしょうか。答えは人それぞれだと思いますが、ぼくだったら「人」だと思っています。

完成したばかりの家は、なんだかふわりと宙に浮いているようで、ちょっとよそよそしい雰囲気を漂わせていて、ちょっと真正面から見ると、ちょっとお互いに照れくさかったりするものです。

里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸
里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸

暮らしが始まり、住まう人々の色が入り込んでいき、少しずつ時間をかけて家族の色に染まっていく。すると、あのよそよそしかった家がすっかり地に足をつけ、どこにもない、ご家族だけの相棒の表情になります。

里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸
里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸

この家に暮らすのは、インテリアショップに勤務する古川さんとその奥様、そして奥様のお父様の3人。そして古川さんご夫婦が大切に育てている愛犬が1匹です。家が完成したのは2016年10月のこと。およそ3年が経った家を訪ねましたが、もうすっかり古川さんご家族に、そしてこの街に馴染んでいました。

真四角でもなく、三角屋根でもない、個性的な佇まいの古川さんの家。ただ、個性的ではあるものの、はっきりとそう感じさせないのが配色の妙です。ホワイト、ブラウン、淡いグレーによるコーディネートにより、もう随分と前からこの場にあったかのように、周囲に溶け込んでいます。

里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸

「元々、この家から徒歩圏内の賃貸アパートに暮らしていました。ここは妻が生まれ育った実家だったんです。お義父さんと一緒に暮らすことになったので、建て直しました」。古川さんはそう言って、奥様のほうを見ました。奥様は「自宅の横には公園があって、住宅街ではありますが、とても閑静なんです。このロケーションを活かした家づくりができればと思いました」と笑顔を見せます。

施工開始に至るまでには紆余曲折ありました。「一生のことなので他でも見積もりをお願いしてみたんですが」と言うと、古川さんの表情が一瞬、曇りました。その提案がしっくりこなかったのだと言います。
「全然ピンとこなかったんです。大手の住宅メーカー、地元で有名な建築士さんにもお願いしてみたんですが、なんというか、自分の家らしくなかったんですよね。言い方が難しいんですが、大手さんの場合は大手さんの特徴が打ち出された提案でしたし、建築士さんの提案はその方の作品のような印象でした。自分の家だ、と思えなかったんですよ」
そこで相談したのが、賢太さんでした。「互いに行きつけだったカフェで出会ったことあり、感覚が合うだろうなと思えたんです。自分が好きな店のことを好きだから、きっとわかってくれるだろうと」と古川さんは振り返ります。

古川さんが惹かれるのはアメリカの西海岸っぽい、どことなく無骨で、木を使うことによって生まれた格好良さだなと思えたんです。
里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸

「古川さんが惹かれるのはアメリカの西海岸っぽい、どことなく無骨で、木を使うことによって生まれた格好良さだなと思えたんです。もちろん、目の前の公園を活かして、そういう家を建てたいと考えました」という賢太さん。完成した家にはリビングに併設する形でウッドデッキが備えてあり、まるで古川さんの自宅の庭のように、眼前に公園が広がります。「元々、植えてあった木々も残して、できるだけそのまま活用したかったんです」と説明する賢太さん。奥様も「外装の色は周囲になじむように、賢太さんにアドバイスをもらいました。暗めにしてトーンを落とすというよりも、やわらかい色合いによってトーンダウンすることになったんですが、その色が私たち夫婦らしくて、気に入っていますよ」と声を弾ませました。

尾道のホテルにインスピレーションを受け、それを具現化したという2Fは、ベッドルームであり、古川さんの書斎でもあります。
尾道のホテルにインスピレーションを受け、それを具現化したという2Fは、ベッドルームであり、古川さんの書斎でもあります。

「こうして1Fと2Fとで家の役割をしっかりと振り分けることで、生活リズムが異なる二世帯での生活でもノンストレスです」という古川さん。奥様も「全体的な空間の広さもちょうどよくって、それぞれの動線を踏まえた上で空間づくりに配慮してもらえたので、家族全員が心地良く暮らせています」と目尻を下げます。
玄関から入ると目の前に大きく開けた窓があります。帰宅するとすぐに人の気配を感じる生活。

デザイン的な特徴は外観だけではありません。特に印象的なのが玄関。玄関から入ると目の前に大きく開けた窓があります。帰宅するとすぐに人の気配を感じる生活。実は奥様はこのスタイルに当初は少し抵抗があったそう。「家に入るとすぐに家族の気配を感じることは、逆に言えばプライバシーがないのかなと思えたんです。ただ、実際に生活が始まってみると、玄関からリビングでくつろぐ家族の様子が見えたり、キッチンが見えたりして、それがとても温かくて。なんだかとても良かったんですよ」。

そのキッチンも視界が広いオープンキッチンを採用してあり、キッチンからもリビング、玄関へと気が配れるようになっています。このオープンになっている枠の部分には木材を取り入れることで、思わずホッとする、やわらかな印象に。

そのキッチンも視界が広いオープンキッチンを採用してあり、キッチンからもリビング、玄関へと気が配れるようになっています。
キッチンにすっと収まっている食器棚は里山建築のオリジナル。自宅の食器を元に、サイズ感を徹底的に検討したため、手元の食器類が整然と並びます。

そして、このキッチンにすっと収まっている食器棚は里山建築のオリジナル。自宅の食器を元に、サイズ感を徹底的に検討したため、手元の食器類が整然と並びます。賢太さんは「見えすぎなく、見え無さすぎでもない、磨りガラスを採用したのがポイントです。開けなくても中に何が入っているかうっすらと分かるので便利ですよ」と自信を見せます。
また、キッチンの収納棚もオリジナル。オリジナルアイテムを組み合わせることで、統一感に比例して使い勝手も向上しました。

「『用』と『美』の調和が取れているのが、やっぱり里山さんならではだと思うんですよね。見えるところにおいては『美』の観点から木材を積極的に取り入れ、目に見えないところは『用』の考えによって、例えばステンレスのキッチンのように徹底して使いやすさが考慮されているんです」と教えてくれた古川さん。そしてそんな家に、彩りとともに古川さんらしさを添えているのが長年、買い集めてきたという家具や雑貨たちでした。
このTRUCKのFK SOFAソファ。かれこれ14、5年前に購入したものなんですが、古くなるどころか、経年によってすごく良い味わいが生まれています。

「家も、物も、長く使えるものを。その考えが根底にあるんです。自分が働く店でも、そういうものたちを取り扱っていますしね。例えば、このTRUCKのFK SOFAソファ。かれこれ14、5年前に購入したものなんですが、古くなるどころか、経年によってすごく良い味わいが生まれています」。
このソファに古川さん夫妻が愛犬とともに腰を下ろした時、一枚の絵のようだなと思えました。この光景が全てであり、美学も哲学も、そして生き方も伝わってきたのです。

他にも古川さんの家には、カールハンセン&サンが手掛けたYチェア、カイ・クリスチャンセンによるNO.42(通称Zチェア)など、家の随所に名作と呼ばれるイスが置かれています。
「過去には、長く使うという視点を抜きにして購入したものもありますよ。ただ、結局、今、こうして僕の身の回りに残っているのは、長く使える物たちばかりです。この家も長い歳月をかけて、じっくり使い込んでいきたいですね」
里山建築 施工事例 長崎県佐世保市 古川邸

Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura

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