INTERVIEW

限りなく日常に近い場所なのに非日常が感じられる別棟。
ここで過ごす時間は、私たちにとってかけがえのないものになりました。

福田邸(別棟)

福田邸(別棟)

奥様の趣味はパン作り。パン作りを始めたのは今から15年ほど前です。「ご近所にパ­ンの先生がいて、習いに行くようになったんです。フラワーアレ­ンジなどにも興味はあったんですが、それですと1人だけの楽しみになってしまいますでしょ。その点、パ­ンは作ったら家­族みんなが喜びますからね。元々、食べることも好­きでしたから、習っているうちに、技術も身に付いてきて、今は教える側になったんです。そのための空間があったら良いなという夢がありました」。

こうして、福田家念願の別棟づくりが始まります。「せっかくなので、医院と母屋を建てた際にお願いしていた建築士の三浦さんに依頼しました。そして工務店をどうしようかとなった際、予てよりお付き合いがあった雑貨店の店主をはじめ、他の方からも里山建築さんの名前が挙がってきました。それならぜひお願いしようと思ったんです」。
 

福田邸(別棟)
福田邸(別棟)
福田邸(別棟)

別棟が完成したのは2012年のこと。別棟は2フロアになっていて、その1階が木工部屋とガレージ。木工部屋は2Fと階段でつながっていて、2Fには設計図を書くなど細々とした作業ができるデスクが備えてあります。1Fは主に木材の切断や研磨のためのスペース。「おかげで今まで以上に集中して没頭できます。空間ができたことで、より一層、生活にメリハリがつきますね」と福田さんは笑みを浮かべます。
 

福田邸(別棟)
福田邸(別棟)

ガレージは、シャッターのカラーをシャンパンゴールドに。そしてファサードにあしらう木材はレッ­ドシダーをチョイス。賢太さんは「元々赤みがある素材で、これのラフ面(削っていない面)にオイルを塗り、ブラウンに近い落ち着いたトーンに仕上げています。水に強く、シミが目立たないという特性があり、これからの経年変化が楽しみですよ」と目尻を下げます。ガレージ内はブルーを基調にした空間。整備のための工具類がスマートに収納できるため、とてもすっきりした印象です。

2Fのメインスペースとなるのが奥様のためのパン教室スペース兼多目的キッチン。この2Fには、1Fの木工部屋、ガレージを介さずに訪れることができるように配慮してあります。駐車スペースからその玄関へと向かう途中に用意されているのが、山口陽介さんが手掛けた木々のアプローチです。一直線ではなく、あえて小径に曲線を取り入れ、木々が蓄えた枝の下をくぐるように、歩みを進めていきます。四季の変化を告げる植物が随所に取り入れてあるため、思いがけず、足を止めてしまうことも。「春には私たち夫婦が好きなブルーにちなんで、ブルースタ­ーという花が植えられているんです。いつ花を咲かせるんだろうと心待ちにする日々が楽しいですね」と奥様はやさしい眼差しを植物たちに向けました。
 

福田邸(別棟)
福田邸(別棟)
福田邸(別棟)

2Fに上がると、豊かに注ぎ込む太陽の光が出迎えてくれました。白と木目を基調に、北欧のインテリアを取り入れた明るい空間は、ブルーがアクセントカラーに。
賢太さんは「ペンダントライトも北欧のブランドのものですね。スペインの教会に着想を得て、コードの長さをランダムにしています。空間全体の印象を決めるので、その長さのバランスは何度も微調整しました」と教えてくれました。
 

福田邸(別棟)
 

空間の中央に3つに分割できる広いテーブル、そのテーブルの前にはアイランド式のキッチンが配置されています。道路側に広い窓があり、その反対側にはオーブンをはじめ、使用頻度が高い調理器具がスマートにストックできる収納スペースになっています。

キッチンの背面は一見すると壁のようですが、実はアクリル板を利用した引き戸です。普段は目隠しされた状態で、引き戸を開けると発酵機や食器類、包材などの収納スペース、そして調理の補助台が現れます。
奥様は「パン教室では発酵の待ち時間にミシンを習うというように、集まる友人たちがそれぞれ得意なことを持ち寄り、有意義な時間を過ごしています。こういう時間が日々の中にあると、とても満たされますね。パン教室に限らず、例えば、誕生日な­どの記念にも使えますし、本当に友人来た際に都合良く気軽に活用できるのが助かっています」と声を弾ませました。
 

福田邸(別棟)
 

「もちろん母屋にもキッチンがあるんですが、こうやってセカンドキッ­チンとして使える空間があると、限りなく日常に近い場所なのに非日常が感じられ、家族全員にとって、大変良いリフレッシュになっています。例えば、朝食をこの別棟で楽しむだけでも、その日1日の気分がガラリと変わるんです。ここで過ごす時間は、私たちにとってかけがえのないものになりました」。そう言って家族に微笑みかける福田さんは実に晴れやかな表情でした。

Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura
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