INTERVIEW

1フロアであり、6つの個室でもある。
シチュエーションを選ばない和食店のカタチ。

月光|AKARI

長崎県波佐見町 月光(アカリ)

県道1号線を走っていると、淡いオレンジ色が目を引く飲食店があります。店の名前は月光|AKARI(以下、AKARI)。開業から6年が経った和食の店です。店主の吉岡淑貴さんは和食一筋。ただ、元々、料理人を目指していたわけではなく、最初はホールの担当だったそう。その後、料理の魅力に目覚め、和食店や居酒屋で腕を磨きました。
 

長崎県波佐見町 月光(アカリ)
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

「実は、波佐見で和食の店を始めるつもりはなかったんです」という吉岡さん。奥様の実家は波佐見町の生鮮食品店を営んでいました。その店では刺身などの惣菜も販売。そこで吉岡さんも働いていましたが、5年目のタイミングでAKARIを開業します。
「駐車場、そして店として使える広さもあり、そこを使ってやってみようということになりました。とはいえ、今の店とは随分、在り方が違いますが」と教えてくれた吉岡さん。
 

長崎県波佐見町 月光(アカリ)

元々、和食を食べながらお酒が飲みたいという宴会需要があり、そのような地域交流の場としてAKARIの開業を決めたそう。そのため、店は、大人数を一度に収容できるような大フロアが店舗面積のほとんどを占め、そのほかにちょっとした接待などに利用できる個室を1つ備えるという間取りでした。

宴会主体の営業を2、3年続ける中で、波佐見町の青年部の集まりで賢太さんに出会います。その頃、吉岡さんには「宴会だけでなく、もっと幅広いニーズに対応できる店にしたい」という思いが芽生えていました。そこで、義父から引き継いだ生鮮食品店を閉店し、AKARIの営業に集中することを決意。ランチを始めるタイミングでリニューアルをしたいと賢太さんに相談しました。

長崎県波佐見町 月光(アカリ)

生まれ変わったAKARIは、落ち着いた印象のファサードが出迎えてくれます。戸の頭上に取り付けたステンレス製の雨よけ、お手洗いの窓を隠すためのスギ材の板、四季の移ろいを伝える植え込みのモミジがそれぞれ上品な空気を演出。
 

長崎県波佐見町 月光(アカリ)
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

例えば、雨よけはシンプルながらも支えを用いることなく平行にのびたデザイン性を感じさせる造りになっているほか、スギ材の板においても下見板張りという外板の張り方をアレンジ。この下見板張りは正面から見ると何の変哲もない目隠しに見えますが、実は換気のためにサイド部分が立ち上がっていて、上部が広くなっているなど、細やかな配慮がなされています。殊更に主張することなく、ただし些細な点にも手を抜かない和食の姿勢と通じるものを感じました。

吉岡さんは「トイレの場所は玄関側と決まっていたので、あとはこのトイレの存在をどうやって消すかということを考えてもらいました。トイレということで窓も必要でしたが、その上で、日立たないようにする。なかなか難しいオーダーだったと思いますが、とても素敵に仕上がって嬉しく思っています」と目尻を下げます。
 

長崎県波佐見町 月光(アカリ)
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

戸を開けると旅館のエントランスを思わせるような、広々としたスペースが目に飛び込んできます。この空間のアクセントが、壁にディスプレイされている月の形状のオブジェ。吉岡さんから「内装に竹を取り入れたい」という希望があり、賢太さんは当初から建具などへの使用を考えていました。こうして設計を進める中で、賢太さんはかねてより交流があった竹の木工作家のアトリエを訪ねます。そこで出会ったのがこの月形の竹製オブジェでした。賢太さんは「これはもう、吉岡さんのための作品だと思ったんです。すぐに吉岡さんに連絡しました」と笑顔を見せます。
 
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

店内は1フロアにすると大人数を収容できるという従来のスタイルは踏襲しながらも、柔軟に取り付け、取り外しができる仕切りによって、この広いフロアを最大6つの個室として区切ることができるようになりました。6分割した個室の場合、1室が最大6人まで対応できるようになっていて、例えば10人での予約の場合には2つ分の個室をくっつけるというフレキシブルな対応が可能です。
 

長崎県波佐見町 月光(アカリ)
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

「仕切りの着脱は日々のこと。なるべくその負担が軽くなるようにしたいと思ったんです。それで、この仕切りの形状を閃きました」。そう言って賢太さんが指差したのが、上下に竹をあしらった戸でした。このデザインにより、見た目は洗練された印象となり、軽量化が実現します。

空調における配慮も空間づくりにおいて重要なポイントです。1フロアの宴会スペースであり、6室の個室でもあるため、個室にした場合にもエアコンが空間全体に効くよう、あえて壁によって完全に空間を遮断しないことに。その結果、全体に開放感が生まれ、個室であっても圧迫感はありません。
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

店づくりにおいては、宴会需要を受ける店ならではの苦労もありました。「例えば単純に広い空間というだけでは、誰がどこに座れば良いのかが明確ではありません。床の間があれば、そちらが上座だろうということが明白なので、利用者のみなさんに気苦労をかけずに済みます。この配置場所についても賢太さんに相談に乗ってもらいました」という吉岡さんに対して、賢太さんは「せっかくリニューアルをすることになったわけですから、床の間についてもセンスの良さが感じられるものを作り上げたいと考えました。照明の入れ方を工夫し、茶室を思わせるシンプルな空気を演出しています」と続けます。
 

長崎県波佐見町 月光(アカリ)
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

また、大人数に対応できるよう、ハンガーラックを取り付けるのではなく、鴨居を利用してハンガーを引っ掛けられるようにするという小技も、極力無駄を廃した空間にしっくりと馴染んでいます。

AKARIでは、夜は長崎和牛の魅力をストレートに堪能できるしゃぶしゃぶのコース、昼は同じく長崎和牛で楽しむすき焼の定食、波佐見焼の蕎麦猪口を小鉢に見立てた品数豊富かつ彩り豊かな御膳が名物です。
 
長崎県波佐見町 月光(アカリ)

リニューアルを経ておよそ3年。空間にも吉岡さん夫妻の人柄が息づいているように思えたのが印象的でした。大切な人との掛け替えのない時間をゆるりと過ごしたいものです。

Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura

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