INTERVIEW

隣り合う世界に目を向け
社会福祉のイメージを
未来に向けて変えていく。

AIUEO LAB.

AIUEO LAB. 隣り合う世界に目を向け 社会福祉のイメージを 未来に向けて変えていく。

平成から令和へと移り変わり、大きな変革の時代を迎えました。それはこれまでの当たり前が当たり前でなくなる時代と言えます。例えば少子化・高齢化の問題。人口は減少し、これらの動きはさらに加速していくでしょう。そしてその流れは、社会福祉についても大きな影響をもたらしています。例えば一人暮らしが増え、三世代世帯は益々減少の一途を辿ります。暮らし方そのものも多様化し、これまでのような核家族をベースにしたモデルケースではどんどん当てはまらなくなっていくでしょう。これからの社会福祉について知ることは、つまり私たちのこれからの暮らしを考えることだと思うのです。
 


写真左から、この日インタビューに対応していただいた石丸さん、貞松さん、寺澤さん

社会福祉を大きく変化させる動きが長崎で巻き起こっています。その渦の真ん中にあるのが「AIUEO LAB.」です。この「AIUEO LAB.」は、代表理事を務める貞松徹さんを筆頭に、原田良太さん、石丸徹郎さん、寺澤大祐さんの4人のメンバーから成る一般社団法人。貞松さんは長崎県・長与町にある「社会福祉法人ながよ光彩会」の業務執行理事、原田良太さんは長崎県・佐世保市にある「宮共生会」の理事長、石丸徹郎さんも原田さんと同じ佐世保市にある「株式会社フォーオールプロダクト」の代表、寺澤大祐さんは長崎県・長崎市にある「社会福祉法人 清心会」の理事をそれぞれ務めています。今、長崎で勢いのある社会福祉法人のキーマンたちが集まり、立ち上げたチームということもあり、その動向に業界が注目しています。
 

AIUEO LAB.

「福祉をエンタメにする。そうしないと業界が変わらないと思っているんです」。貞松さんはその言葉に力を込めました。誤解なく言うと、彼らは福祉について真剣です。エンターテイメントというとその思いが軽く見えてしまいそうですが、決してそうではありません。文化の発展、成熟において、エンターテイメント、すなわち「楽しさ」は何よりの原動力になります。
僕自身、彼らと出会う前の社会福祉には少なからず距離がありました。まだ両親も健在で、これまで福祉施設に縁がなかったからです。だからどういうことをやっているのか、どんな人たちが働いているのか、そこにどのような人々が集まっているのか、全く知りませんでした。そういう意味で距離あったのですが、「AIUEO LAB.」のメンバーと接点ができたことによって、その溝は埋まりました。4人がとても生き生きしていて、楽しそうだからです。

「僕も所属している東京のNPO法人『Ubdobe』では音楽のライブイベントを開催し、そのライブの途中に福祉のトークを挟むというアイデアを取り入れています。好きなアーティストのライブを見に来て、福祉に触れる。そうすると響くんです。東京でのそのような活動を地元の長崎でもできれば、と考えました。そういった日常の世界と社会福祉との壁をなくし、普段生活している世界の隣に同じように社会福祉の世界が自然とあるということに触れてほしいんです」と貞松さんはその思いを伝えてくれました。
 

AIUEO LAB.

こうした思いが発足の背景にある「AIUEO LAB.」の活動テーマは、長崎の福祉、そして自治の再編集です。「自分にできないことができるメンバーが揃っている。無いものを互いに補完できる関係ができているのは嬉しいところですね」という貞松さん。4人の個性がしっかりと浮かび上がる関係性だからこそ、チームを組んでいるともいえます。4人のメンバーはそれぞれに福祉の世界において名を馳せる存在ですが、それでも一法人の力では限界があるのだと貞松さんは言います。そしてこう続けました。「神奈川県藤沢市の高齢者福祉施設を見学させてもらったことがあります。その方のアテンドでいろいろなところを視察させていただいたんですが、どこに立ち寄ってもまるで自分の施設を紹介するかのように、行く先々の施設や担当者のことを話してくださったんです。では自分はどうか、と考えたときに、全然できていなかったなと痛感しました。同時に、そうやって自分のことのように仲間のことを紹介できるからこそ、遠く離れた神奈川県での活動の噂がこうして長崎の僕らにまで届いていると思えました。だから、もっとつながりを強め、“オール長崎”でやっていかないと僕らに未来はない。そういう気持ちでいます」。
 

AIUEO LAB.

神奈川県の事例だけでなく、そのようなチームを作ることによって相乗効果を図る社会福祉における新たな活動の芽が全国で出ているそうです。石丸さんは「その中で意識しているのは、どのように自分たちの活動を表現していくか、ということですね。どんなに良い活動をしていても、発信の仕方次第で、魅力的にも、そうでないようにも見えてしまいますから。もちろん脚色してはいけません。きちんと中身が伴った上での話です。他県にまで僕たちの存在が知れるようになるには、『AIUEO LAB. 』というチーム全体としての見せ方に工夫が必要だと思っています」と教えてくれました。

実際、「AIUEO LAB.」の誕生によって4人の繋がりは強くなり、様々な点において良い影響が生まれています。「例えば、石丸さんが運営している就労継続支援B型事業所 『MINATOMACHI FACTORY』の事業所を見学しに行き、やっぱり素晴らしいなと思いましたし、こんな風に自分の施設も変えていきたいというようなモチベーションも沸き上がってきました。自信をもって誰かに紹介したい法人ができたことは僕自身の強みになりますし、何より、そんな存在が仲間にいるということが嬉しいですよね」という貞松さん。

僕自身、全然分かっていなかったことの一つに、社会福祉といっても、その中に色々な分野があり、その分野ごとに専門知識が異なるという点がありました。石丸さんは「ジャンルの違いは大きいですよ。高齢者福祉サービスと就労継続支援B型の二つだけを比較してみても全然違う。僕はB型を専門にしていますが、高齢者福祉については全く深い知識がないんです。そもそもその二つだと、考え方の根本から全然違いますしね」と言います。

その言葉を受けて、貞松さんは「石丸さんの運営するB型福祉施設では、通所者様がアーティストとなり、彼らの手掛けたものは作品として販売され、そこから収入を得ています。私たちの高齢者福祉施設の場合、何かを作ったとしても、それを展示会などで発表して終わり。それを売るという発想がありませんでした。高齢者福祉だから心身のケアをする。そういう固定概念が自由な発想を邪魔していたんだと痛感しました」と続けました。

「AIUEO LAB.」の強みは、こういった福祉のジャンルを越えたアイデアのやり取りができるというだけでなく、その成果におけるクオリティを高め、魅力的な情報として発信できるところにあります。石丸さんは「単純にあっちでやっていたことをこっちに当てはめてみるというような組み合わせ、アレンジだけでは面白くないんです。そこにどれだけオリジナリティを付加できるかが鍵ですから。今、福祉はクリエイティブだと思っています。僕らが支援しているアーティストたちがいかにしてお金を稼ぐかを考えることは、生きることを考えることと同じです。それをサポートできるのが僕たちの仕事のやりがいだと思うんです」と言葉に熱を込めます。
 

AIUEO LAB.

今後、「AIUEO LAB.」はどのように活動していくのか。その問いに寺澤さんは「大きな点では『AIUEO LAB. 』として長崎県の福祉を発信していく。それはこの長崎で福祉を志す人たちに向けて情報を届け、興味を持ってもらうということです。そのためには、知るきっかけが必要ですし、そのきっかけ自体が面白くないといけない。面白い場所に人は集まってきますから。そのためのプラットホームを作りたいと思っています」と意気込みを語ってくれました。

貞松さんも「プラットホームを作るためにも、さらに多くの人を巻き込んでいかなければなりません。それは『AIUEO LAB. 』のメンバーを増やすという意味ではなく、共感してくれる仲間を増やすということです。県内で、福祉の枠に囚われず、異業種であっても面白い人材がいれば、どんどん交流を深めていきたいんです」と同調します。寺澤さんは「僕たちの周りには常に面白い人たちが集まっている。そんなイメージができてくると、福祉自体のイメージも変えていくはずです。この長崎に面白い人たちがどれだけいて、どんなことができるか。その働きかけをやっていくのが『AIUEO LAB. 』の役割だと考えています」と将来への展望に意欲を見せます。
 

AIUEO LAB.

「今までだと、こうやって新しい取り組みにチャレンジしていても、昔からの慣習から『それをやってはいけない』『そういうことを真剣に教えてもしょうがない』、そう言われてきました。ただ、僕らがメインストリームになれば、話が変わってきます。そうなれば、一段と発信力、発言力がついてくる。そうなるとこれまで以上に、これからの福祉を支えるような若い世代に影響が与えられると思うんです」という石丸さん。寺澤さんも「若い人たちが働きたいというジャンルのニーズをしっかり受け止め、その受け皿を形にしていく。それを地道にやっていくのが大切ですね」と続けます。
 

AIUEO LAB.

どうしても社会福祉という言葉に引っ張られてしまうと、考える上で頭でっかちになってしまいがちになりますが、そういう先入観はどんどん取っ払って良いと石丸さんは言いました。「突き詰めていくと、最終的になんでも福祉になると思うんですよね」。石丸さんのその一言が胸に刺さりました。

「今、石丸さんの施設に所属して活動している1人のアーティストの生きる術をどう支援し、どのようにブランディング、プロデュースしていくか。そのことをAIUEOのメンバーで議論しています。つまり、その方にどう楽しく人生を歩んでもらうか、ということを考えているんです。一方で、アーティストのことはそこまで考えているのに、施設で共に働いてくれている仲間の、そういう人生や夢について話を聞いたことがあるかなと思ったときに、全然できていませんでした。そこで『介護、福祉の仕事に就いていなかったら何がしたい』と聞く場を設けたところ、あれがしたい、これがしたいというように、いろいろと出てくるんです。では、それを法人としてバックアップしたい。そう考えています」という貞松さん。
 
AIUEO LAB.

貞松さんが2020年7月に立ち上げた「みんなのまなびば み館」はそのバックアップの一環です。「み館」は分け隔てなく誰もに開かれた地域のコミュニティスペース、そしてデイスクール。コンセプトに掲げているのが、地域のために開かれた「まちのリビング」。「小さな子供からご高齢の方まで、幅広い世代が交流できるようにしたいと考えています」とビジョンを話す貞松さん。出身地や国籍、障がい者も健常者も垣根なく共に過ごせる空間を目指しています。
 

みんなのまなびば み館
みんなのまなびば み館

「自分が得意なこと、好きなことを通して、みんなが先生にも、さらには生徒にもなれる学びの場です。誰もというのは本当に子供から大人まで地域住民の方々、福祉施設に入居されている高齢者のみなさん、そして施設を運営している介護職員たちも先生として、生徒として利用できる場所です。そこで収益を得てもらっても全然構いません。公認の副業ですね」と貞松さんは笑顔を見せました。
 

みんなのまなびば み館

こうして場を作ることは、新しい接点が生まれるということ。個人という存在がどんどん大きくなっていった現代において、社会とのつながりをいかに多く作ろうかと考える貞松さんたちのアクションはとても眩しいものでした。

「世界と話そう。このフレーズはAIUEOのキャッチコピーなんですが、その世界は文字通りの海の向こうの世界ではなく、自分の隣にある世界を意味しています。隣にある世界のことをもっと知り、それを広げていければと思っているんです」。貞松さんはそう言って少し照れ臭そうに笑いました。
 

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Text:Yuichiro Yamada(KIJI)
Photo:Yuki Katsumura

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